再生医療図鑑

再生医療という言葉を耳にする機会が増えました。病気やけがで失われた体の機能を取り戻す新しい医療として、大きな期待が寄せられています。これは、人間が本来持っている「再生する力」を最大限に引き出すことを目的とした治療法です。例えば、これまでの治療では症状を薬で抑えたり、人工物で機能を補ったりすることが中心でした。しかし再生医療は、細胞や組織そのものを再生させることで、根本的な回復を目指す点が画期的なのです。この医療の鍵を握るのが「幹細胞」と呼ばれる特殊な細胞です。私たちの体は約37兆個もの細胞からできていますが、そのほとんどは皮膚や筋肉といった特定の役割を持っています。これに対して幹細胞は、さまざまな種類の細胞に変化できる能力（多分化能）と、自分と同じ細胞を複製して増える能力（自己複製能）を併せ持っています。この能力を利用して、損傷した部分に必要な細胞を作り出し、組織や臓器の機能を回復させようというのが再生医療の基本的な考え方です。再生医療に用いられる幹細胞には、主に体性幹細胞、ES細胞、そしてiPS細胞の3種類があります。体性幹細胞は私たちの体の中に存在し、決まった種類の細胞に変化することができます。安全性が高く、すでに骨髄移植などで実用化されています。ES細胞は受精卵から作られ、非常に高い分化能力を持つ一方で、倫理的な課題も指摘されています。そして、日本の山中伸弥教授がノーベル賞を受賞したことで一躍有名になったのがiPS細胞です。iPS細胞は、皮膚や血液などの体細胞から人工的に作られる多能性幹細胞で、ES細胞とほぼ同等の能力を持ちながら、倫理的な問題をクリアできる画期的な細胞として注目されています。患者さん自身の細胞から作製できるため、移植した際の拒絶反応が起こりにくいという大きな利点もあります。このiPS細胞の登場により、これまで治療が困難だった病気やけがに対する新たな治療法の開発が飛躍的に進むと期待されています。