再生医療図鑑

2025年11月
  • 心臓再生医療という新たな希望

    生活

    心筋梗塞や拡張型心筋症などにより心臓の機能が著しく低下した重症心不全は、生命を脅かす深刻な病です。心臓のポンプ機能を担う心筋細胞は、一度壊死してしまうと、その数を自力で増やすことはほぼできません。そのため、従来の治療法は、薬物療法によって心臓の負担を軽減したり、ペースメーカーや植込み型除細動器で不整脈を管理したり、あるいは補助人工心臓でポンプ機能を代行したりと、残された機能をいかに維持するかに主眼が置かれてきました。根本的な治療法は心臓移植しかありませんでしたが、日本ではドナーが極めて少なく、多くの患者さんが移植を待ちながら病状を悪化させてしまうという厳しい現実があります。この長年の壁を打ち破る可能性を秘めたアプローチとして、再生医療が大きな期待を集めています。心臓再生医療は、細胞そのものが持つ力を利用して、ダメージを受けた心臓組織の修復を促し、失われたポンプ機能を取り戻すことを目指す最先端の治療法です。具体的には、患者さん自身の体から採取した細胞や、人工的に作製したiPS細胞から分化誘導した心筋細胞を、心臓の患部に移植します。移植された細胞は、それ自体が新たな心筋として機能するだけでなく、周囲の細胞を活性化させる様々な生理活性物質を放出する「パラクライン効果」によって、血管の新生を促し、心臓の線維化(硬化)を抑制するなど、多角的に心機能の回復を後押しします。これまで対症療法や臓器移植に頼らざるを得なかった心臓病治療において、自己の心臓を再生させ、機能を回復させるという全く新しい治療戦略は、多くの患者さんにとって未来を照らす希望の光となっているのです。