iPS細胞が拓く再生医療の最前線
再生医療の中でも特に大きな注目を集めているのが、人工多能性幹細胞、通称iPS細胞です。これは、私たちの皮膚や血液といった、すで特定の役割を持った体細胞に、数種類の遺伝子を導入することで作られます。この操作によって、細胞はまるで受精卵に近い状態まで初期化され、心臓、神経、肝臓など、体のあらゆる細胞に変化する能力を獲得します。この技術の最大の功績は、患者さん自身の細胞から幹細胞を作れる点にあります。他人の細胞を移植すると、免疫系が異物とみなして攻撃する拒絶反応が大きな課題となりますが、自分自身の細胞から作られたiPS細胞を使えば、そのリスクを大幅に低減できるのです。また、受精卵を破壊する必要がないため、ES細胞が抱えていた倫理的な問題を回避できることも、研究を加速させる大きな要因となりました。現在、iPS細胞技術は様々な分野で応用研究が進んでいます。例えば、目の難病である加齢黄斑変性の患者さんに、iPS細胞から作った網膜の細胞を移植する臨床研究は世界で初めて成功し、多くの人々に希望を与えました。ほかにも、パーキンソン病の患者さんの脳に神経細胞を移植する治療や、重い心不全の患者さんの心臓に心筋細胞のシートを貼り付けて機能を回復させる試みなど、これまで根本的な治療法がなかった病気への挑戦が続けられています。iPS細胞は、新しい薬を開発する創薬の分野でも力を発揮します。患者さん由来のiPS細胞で病気の細胞を再現し、そこに様々な薬の候補を試すことで、効果や安全性を効率的に調べることができるのです。再生医療の未来は、このiPS細胞技術のさらなる発展にかかっていると言っても過言ではないでしょう。